大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和25年(う)312号 判決

控訴人 被告人 野口武夫

弁護人 深田小太郎

検察官 田中泰仁関与

主文

原判決を破棄する。

本件を徳島簡易裁判所に差し戻す。

理由

弁護人の控訴趣意は末尾添付書面記載の通りである。

職権で調査すると原判決の事実の要旨は被告人は法定の除外事由がないのに政府食糧配給公団其の他農林大臣の指定する者以外の者に別紙明細表記載の通り七回に亘り自己所有の小麦粉合計二十九貫八百匁を代金一万九百十三円で売渡したと認定し、之に食糧管理法第九条第三十一条同法施行令第八条同法施行規則第二十三条刑法併合罪の規定等を適用処断してゐるのである。ところが、右規則第二十三条に謂ふ米麦等とは食糧管理法第三条第一項同法施行規則第三条第一項等に鑑み小麦粉を包含して居らないことが明白である。従て本件の如く小麦粉を売渡した所為に対しては右規則第二十三条等を適用すべからざるに拘らず之を適用し有罪の判決をした原判決は法令の適用を誤つた違法がある。

ところが起訴状記載の本件公訴事実によれば被告人は別紙明細表記載の通り小麦粉合計二十九貫八百匁を金一万九百十三円で売り渡した旨の記載がある。右は物価統制令違反の訴因の記載としては刑事訴訟法第二百五十六条の要件を完備したものとは謂へないが該訴因をも包含するのではないかとの疑ひがないでもない。

以上諸般の事情を考慮すればかゝる事情の下に於ては裁判官は検察官に対し右は物価統制令違反の訴因なりや否やについて釈明を求めもし然る場合には其の瑕疵を補正する様訴因の追加変更を促し又は審理の経過により追加変更を命ずることにより之を補正することが正当であつて此の措置に出なかつた原審は審理不尽の結果事実の確定に影響を及ぼすべき法令の違背があるとも謂はねばならない。

孰れにするも判決に影響を及ぼすことが明であるから控訴趣意については判断を省略し刑事訴訟法第三百八十条第三百七十九条第三百九十七条によつて原判決を破棄し更に審理の必要があるから同法第四百条本文によつて原裁判所に差し戻す。

仍て主文の通り判決する。

(裁判長判事 満田清四郎 判事 太田元 判事 横田吟)

(弁護人の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例